夫が入院してからというもの、私はテレビを見ることができなくなっていました。
音や映像が心に響きすぎて、現実を直視するのがつらくなるのです。
その代わりに、刺繍やパッチワークをしながら、静かな映像と穏やかな音楽が流れる動画を見て過ごしていました。
12月に入ると、ラジオから流れてくる季節の歌が、私の心に深く沈んでいきました。
本来なら楽しいはずのあの時期、今まで大好きだったはずのあの雰囲気が、私にはとてもつらく感じられたのです。
「今年は一緒に過ごせるのだろうか」――そんな不安が胸を占めていました。
音楽が胸を刺すとき
ある日、病院の帰り道、元気の出るはずのある曲がラジオから流れてきました。
明るく前向きなメッセージを持った曲。
でも、その中の「これは夢じゃない」というような歌詞が、私の心を深く揺さぶりました。
「これが夢じゃないなんて……」
思わず自分の中で何かが崩れました。
毎日、苦しみと向き合いながら必死に現実を見つめていたはずなのに、
まだどこかで「これは夢であってほしい」と思っていたことに気づいたのです。
その瞬間、自分を責める気持ちが込み上げ、涙が止まりませんでした。
息子のやさしさに救われて
しばらくして、私は体調を崩し、いつも通っていた病院に行けない日がありました。
その日、息子が代わりに面会に行ってくれました。
帰ってきた息子が買ってきてくれた中に、チョコ味のカップアイスがありました。
何気なく食べたその一口が、とても美味しくて、ふと心がゆるんだのです。
その瞬間、不思議とこう思えたのです。
「これは夢じゃない。今なんだ。私は、今を生きている。」
今を生きよう
私は、そのアイスと息子のやさしさに救われました。
そして気づいたのです。
苦しいけれど、私は一人じゃない。
小さな一言や何気ない時間が、こんなにも大きな力になるんだと。
だから、心に決めました。
夫が退院したら、あのアイスを一緒に食べようと。
あの一口がくれた希望と、支えてくれた家族の思いを、ずっと忘れないように。
その日、私の目にほんの少しの光が戻ってきたような気がしました。